台風一家  STORM IN THE LIFE

記憶の底でゆれる影に
誘われるようにして
からだがぷわりと浮く
どうしようもなく浮いてくるのです
どこからどこまでが影なのか
夢なのか
夢のはずれなのか
色あざやかな遊戯になって
いとしい顔がうっとりゆがむ
金髪がまぶしい
桃色セーターがあぶない
おどりだしそうなスカート
アップ アップ アップ
べんき べんき
なんで⋯⋯
こんな⋯⋯
もろいなあ
おれたちはみなプラスチック
プラ、プラ⋯のプラスチック
記憶もまるごとプラスチック
白昼の夢を蹴散らして

押しよせる波浪に呑まれ揉まれ
アップ アップアップ
あぶないよう
あぶくばかりだよう
姉さんの声はどこ?
母さんは岩のうえで坐礁
父さんは夕ベからゆくえふめい
ぺちゃくちゃ
べちゃくちゃ
グラマーなジェーンやキャサリンたちの大あばれ
そんな時代もありました
今はただ
ばらばらの恍惚家族に向け
シャッターを切るばかり
ほら レンズの時間が曇ってくる
どうしよう
タイフーン タイフーン
プラスチックで捏ねられた世界が
にぶい声をあげる
おれたちはみなプラスチック
プラ、プラ⋯のプラスチック
記憶もまるごとプラスチック
父さん母さんプラスチック
もとより離合集散は得意わざ
半透明のどんでんがえし
懐かしいジャズの泡つぶが四散して
ゼリーのあらし
おいしいゼリーに囲まれ
家族の夢が
こんなに美しく固まってしまう
呆気ない遊戯の煮こごり
もろいなあ
あなたは
どこ?
わたしは
ここよ
ああして こうして
こうなって
きしむ家族
記憶という闇のバランスの底で
家族というバランスがもがく
プラ、プラ⋯⋯
もろいなあ
ファミリー
いとしのプラスチック
風が人を凍らし
それから
人が人を凍らす

八木忠栄

 

*作者の八木忠栄さんより「2000年6月 セゾンアートプログラムギャラリーで開催された個展「台風一家」に触発された作品です」というお知らせをいただきました。

 

 

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2件のコメント

  1. 伊賀美和子様
    開設、おめでとうございます。
    懐かしの「台風家族」。小生の詩を添付してくださりありがとうございます。
    歩きは困難ですが、詩や俳句は作っております。
    つづけてください。
    八木忠栄  

    1. 八木さま
      ありがとうございます。
      詩「台風一家」を写真とともに掲載させていただき、心より感謝申し上げます。

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